体の痛みは常に何かを訴えている

体の症状は、ときとして言い出せない自分自身の思いを代弁することがあります。

たとえば、モルヒネなどの麻薬をはじめ、いろいろな薬を使ってもなかなか痛みがすっきりとれないことがあります。

こういう患者さんにどんどん薬を増やしていくと、副作用ばかり出てしまって肝心の痛みはなかなかとりきれないことが多いものです。

ところが、こういう患者さんでも、家族がマッサージをしたり、気分転換に外出の予定を立てたりすると、嘘のように痛みがとれることがあります。

実は「痛み」は、自分がなかなか口に出せない気持ちの代弁者でもあります。

とても我慢強くて、誰かの世話になるのがつらい人は、「誰かそばにいて。体をさすって」ということが、素直に言い出せません。「私はひとりで大丈夫。そんなに弱くないもの」と痩せ我慢をしてしまうこともしばしばです。

しかし、心の奥底に「不安で寂しい気持ち」が眠っていると、体は正直なので「痛み」を出して、本当の思いを告げようとするのです。

「痛み」があれば、看護師も家族も心配して、その人のそばに来ます。何かと気にしてもらえるのです。しかも本人にとってみれば、「痛みが出ているのだから、優しくしてもらっても当然」と自分を納得させることもできます。

「それじゃ、仮病じゃないの」と思う方もいるでしょう。でも、これは仮病ではなく、本当に体に痛みがあって、それがとてもとれにくい状態になっているのです。こういったことは、よくあることです。

また、骨が折れかかっていたり腸が詰まっていたりと、体の具合が相当悪くなっているときも、体は「痛み」という方法で赤信号を出します。

こうした場合、痛みがなくなってしまうと、本人は「もっと動きたい」「たくさん食べてもっと元気になりたい」と焦って無理矢理体を使うため、かえって骨折、腸破裂などの危険な状態を引き起こしてしまいます。

そうした最悪の状態を阻止するために、体はどんなに強い薬にも負けずに「痛み」というサインを出し続けます。つまり、とりされない痛みは、「動くと骨が折れるから、動かないで」「食べると腸が破裂するからやめて」という体からの必死の警告なのです。

十分な薬を使っているにもかかわらず痛みがとれないときには、以下の理由に当てはまらないかを、まずチェックしてみてください。

・不安、恐怖、寂しさなどが強いため、誰かにそばにいてもらいたいと思っている。

・我慢強くて、人に頼るのが嫌いな性格。

・心は動きたいが、動くと体が悪くなる可能性が強い状態。

こうした痛みというのは、どんな処置をしても絶対にとれません。

とれないほうが、本人にとって都合がいいからです。こういう痛みがとれるのは、「痛みがなくても、自分の願いが満たされるとき(痛みはなくても、誰かがずっとそばにいてくれることになった……などとなのです。

だから、痛みなどの症状がいろいろな薬を使ってもなかなかとれにくいときこそ、家族や友人の出番です。病院まかせにするのではなく、本人と一緒になって、「この痛みは何を訴えているのだろうか」と考えてみましょう。

そして、「病気なんだから、つらいときには、我慢しないで」と声をかけてみてください。モルヒネなどのどんなに強い薬よりも、ときとして、周りの人の愛情のほうが効くことがあるのです。